再考 0円ビジネス(FREE)の有効性

少し前にブームになって今や当たり前となったのかどうか、0円ビジネスについてクリス・アンダーソンの「FREE」を振り返りつつ今思うことを書いてみる。要は「無料でビジネスは成り立つか」という話だが、事実としてすでに成り立っている。もちろん利益を上げることを前提としたFREEであるため、そこをしっかりと考えておかないと慈善事業になってしまう。慈善事業ならまだ良いが、場合によってはそれ以下になってしまって企業価値を損ねる可能性もあるので注意しておきたい。

フリーの成り立ち

有名なのはジレットGillette)のカミソリ。1901年にT字型カミソリを開発したジレットだが、最初は全く売れなかった。そのため、様々な商品におまけとして付けてまずは使ってもらおうと考えた。ところが、丈夫なカミソリの柄はそのままに刃だけ交換する使い方が定着してしまう。これが今も続く、本体ではなく替え刃を継続して買ってもらう戦略の始まりである。
 ※最初のカミソリを無料で配ったとしても替え刃で儲けるビジネスモデル、とてもスマートだと思うが、最近は3枚刃、4枚刃等で異様に替え刃が高い気がして・・・ww。しかも最初も無料じゃないし。(「替え刃が2つついていくら」とかいうのがその名残だろうか)

4つに分類されるフリーのビジネスモデル

本著「FREE」ではビジネスモデルを4つに分けている。

どれも言葉にするとよく分からないが、フリーミアムはとても言葉として一人歩きした感があるので知られているはずだ。基本製品を無料で出しておいて、プレミアム製品を有料で、というモデルである。直接的内部相互補助は、何かを売るために他のモノを無料にするというモデルで、先のジレットが代表例になる。三者間市場は、いわゆる広告モデルであり、非貨幣市場は直接的に貨幣を伴わない価値交換と言えばよいだとろうか。amazonのブックレビューなどが良い例といえる。

※図を描こうとして断念・・・ここに図があったので見てください(手抜き) 
 →http://birdwing.sakura.ne.jp/flash/FREE.swf

フリーミアムモデルは割と身近に接しているが、最近ではスマフォでWebページを見れるようになったけどPC用で見難いので「より見やすいビューワを有料で」なんてことが多い気がする。

フリーと戦う

世の中には有料な商品やサービスが大半である。消費者にとっては無料の方が良いにきまっている。そもそも無料化する輩は別のところで利益をあげようと目論んでいるので、それ自体で利益をあげようとする方にとっては脅威としか言いようがない。じゃぁもう無料なものにはかなわないのか、というとそうでもない。(無料ではないが)マックの100円コーヒーが傍にありながら、スタバのコーヒーを飲む人がいることを忘れてはいけない。無料よりも良いもの、または違うもの、付随する価値を提供することを考えなければならない。そこを拒みながら今まで通りに無料の商品やサービスと同じ土壌で真っ向勝負を挑むならそこにはたぶん未来はない。

フリー戦略は万能か

結論から言って万能ではない。無料を武器にした多くの企業が撤退している事実はすでに周知の事実となっている。サンプル・ラボ(現在では、エル・マーケティングの運営するサンプリング・カフェが業態を変化させて事業を継続させている)、モーブッサン(無料ダイヤ配布でブランド価値を損ねる)・・・などワイドショーを賑わせた企業も失敗に終わっている。これは限界費用が0にならないリアルの世界で軽々しくフリーを持ち込むことへの警告ともとることができる。

使う側にまわる

さて、このフリーなモデルは享受する側は自身の利益に従ってのほほんと戦略に流されていれば良いが、使う側にまわるとこれがなかなか難しい。特に非貨幣市場は直接的利益が出ないので、利益計算がし難い。そのため踏み出すのも勇気がいるというか、どう説明してよいか分からない現状もある。要は論理に従った定量的な見積もりが難しいわけだ。その上、前述したように限界費用がゼロにならないリアルな世界において、「無料」の意味するところをもっと考えなければならない。マーケティング的には、製品特性モデルでいうところの中核、実体、付随機能という3つの特性のどこで勝負するのかを考えなければならない。付随機能で勝負することが可能であれば、まずはそこを考えるということが必要なのかもしれない。

後記

「FREE」を改めて考えてみて、軽々しく「無料で」と言えないことを認識した。「FREE」を最初に読んだときは、世の中の無料ビジネスが上手く説明されていたので画期的でどう乗っかるかということを考えていたが、冷静に読んでみるとそれが解ではないことに気づく。モーブッサンのように短期的な利益でペイしてもブランド価値を損ねると長期的にはマイナスとなりかねない。しかも、ブランド価値は高めるのは容易ではないが、損ねるのは至って簡単だからまた恐ろしい。加えて打って出る市場にとって自身の企業がリーダなのかフォロワーなのかという考え方も十分に戦略と絡めて考察する必要がある。やはり、マーケティングの基本的な考え方が必要であることは間違いない。最近、重要なのは物事を否定できるマーケティングな視点だと思っている。「なんとなくダメ」ではなく、こういう考え方をした場合にこれではビジネスにならない、という確固たる考え方が重要になってきている。特に消費者相手でどうにかなるか分からないならなおさらである。基本をベースに仮定して、肯定・否定を繰り返してある解にたどり着く、それがマーケティングであり商品開発ということだろう。