『デザインも含めて』良いものが選ばれる

ウジトモコさんの「デザインセンスを身につける (SB新書)」という本を読んだので紹介も含めて思ったことを少し。

「変わっている」ということ

「変わっている」、そういわれたことがあるだろうか。個人的には何度かある。でもそれが悪いと思ったことは一度もなければ、むしろ楽しんでいる方である。楽しんでいると御幣があって、「退屈でありたくない」がとても近い表現だ(結果としては楽しんでいることは間違いではないが・・・)。自分の存在自体は何のためにあるのか。言葉にすると哲学的かもしれないが、その存在理由に自分が納得と楽しみを覚えられるかどうかだけの問題だ。本書にこんな文章がある。

あなたが「変わっている」というのは、創造性を発揮するという場面においては、とても素敵なことであり、
それ自体が評価されるべきことなのです。皆がもしも同じだったら、あなたという存在自体危うくなる時代
なのですから

そう、「自分」という存在自体危うくなる時代なのだ。どうせ危うい時代ならば、創造性を発揮することに挑戦した方がより楽しいじゃないか、とそう思っているのでそこをもがいている真っ最中だったりする。創造性を発揮することは口で言うほど簡単じゃない。でもそこに向かっていくことは少なくとも今のままでいるよりははるかに「退屈ではない」だろう。

宣伝、広告、営業の努力は報われるか

残念ながら、広告も厳しい時代を迎え、明日の広告 変化した消費者とコミュニケーションする方法 (アスキー新書 045)新版 戦略PR 空気をつくる。世論で売る。 (アスキー新書)でも言われている通り、トータルでのコミュニケーションが重要な時代になっている。コミュニケーションデザインとは少し違うかもしれないが、本書ではこんな文章があった。

がんばって宣伝していも、死にものぐるいで営業しても、結局は「(デザインも含めて)モノがいい」ものが
選ばれていく時代になりました。
(略)
「格好悪いデザインの商品だけど」
「スペック的にはいま一つだけど」
「でも、宣伝で売りまくったよ」
「なんとか営業手腕で乗り切ったよ」
こういうのは、もうクールなパートナーのセリフではないと思います。

まぁ売りまくれたり、営業手腕で乗り切れるならそれはそれで良いと思ったりするが、実際のところ多くの製品でそんなことはできていないだろう。

モノを売るというときに必要なことは何か

最近では、できている/できていないに関わらず、マーケティングは意識されつつある。仮に専門家がいなくてもだ。それは、昔とは需要と供給が入れ替わったことがいち消費者として実感できているからに他ならない。そして、それに追い討ちをかけるように、マーケティングに関する書籍や雑誌の多さが重要性とトレンドを意識させる。もう少しかかるかもしれないが、「デザイン」が同じようになる日も遠くない(というか近い、というかすでに来ている?)。本書ではその辺りを「デザインマーケティング」という言葉で表現されている。

デザインとは「全体戦略」の中の極めて核心に近い「部分」を構成するツールといえます。考え方や価値観
というベースがあって、それを受け入れる市場・顧客創造がマーケティング、動かすのがエンジニアリング、
可視化して目に見えるものにしていくのがデザインです。

これらの3要素を意識すること、すなわちマーケティングとエンジニアリング、そしてデザインを等価なものに引き上げる作業が必要である。色やカタチという見た目を超えたもの、マーケティングな目線で可視化されるデザイン、それをないがしろにして売れる時代ではないということだ。

出来上がったものを一生懸命売る時代でもない

ここはウジさんの言葉をそのまま引用させてもらいたい。

デザインマーケティングとは「すでに出来上がっているものをがんばって売る」話ではないのです。常に、
未来に向かって開いていること、成長につながるシナリオの上を、きちんと計算された戦略が走っているこ
と。知らない誰かが、未知なる可能性がどんどんリンクしてつながり拡散されていくスキームを、もともと
持っているからうまくいくといっても過言ではないのです。
デザイナーが偉いとか、マーケティングが主導だとか、営業あっての商売だろうとか、そういう時代はもう
終わりを告げました。皆の顔色をうかがっている時代でもありません。
デザイナー以外の人もクリエイティブにならなければ、デザイナーの発案したアイデアだって、死に案にな
ることもあります。(略)たとえ営業主導のプロジェクトであっても、クリエイティブなチーム、イノベー
ティブな結果を生み出すことは可能です。

デザイナがいない・・・という話は良く聞く。というより製品開発をしていると大抵そういった専門家はいないので私もそう言っていた。しかし、ウジさんの言葉には力があって私は甘えていたことに気付いた。クリエイティブはそれ単体の人ではありえず、チーム全体として成り立たせるものだということを。きっと立ち位置はマーケッターであったり、エンジニアであったり、デザイナであったりするわけだか、そこに共創する意識を生み出せなければ、結局のところ「すでに出来上がっているものをがんばって売る」ということになってしまうということだ。

終わりに

今回は書評というよりは精神的なところで印象に残ったところを書いている。実際は、本書の中で具体的なデザインのテクニックも紹介されているので「デザイン」に関心があるのならば読んでおいて損はない。個人的にはしばらく近く置いてちょいちょい手に取る本になると思う。私の場合、この本をきっかけにもうちょっとデザインの話を突っ込んでおきたかったので(熱が冷めないうちにww)売れるデザインのしくみ -トーン・アンド・マナーで魅せるブランドデザイン-も今日買ってみた。何度か読んでデザインのテクニック的なところがもう少し腑に落ちたら「書評」というカタチで書いてみようと思う。

デザインセンスを身につける (SB新書)

デザインセンスを身につける (SB新書)